「ビジネスで一番、大切なこと」を読んだ

ビジネスで一番、大切なこと 消費者のこころを学ぶ授業

ビジネスで一番、大切なこと 消費者のこころを学ぶ授業


原題は「Different」。邦題の「ビジネスで一番、大切なこと」というのは
よくある自己啓発のようなタイトルで、これは失敗だと思う。
著者のヤンミ・ムンさんはハーバード・ビジネススクールの教授とのこと。
この本はビジネス書というよりはエッセイのほうが合う。


内容はとても面白かった。


パッと検索して書評を見る限り、概ね評価は高いけれど、
よくある話、プラクティカルではないというような書評も多い。
(著者自身がハウトゥー本ではないことは明言している)
確かに出てくるケーススタディは、既に語られた感もあるブランドが多い。
(アップル、グーグル、ハーレー、MINIクーパー、IKEA、etc)


じゃあ、なぜ僕は面白いと思ったのかをちょっと考えてみる。


長いけど、ちょっと引用してみると

多くのカテゴリーで差別化が難しくなっているのは、
私たちが本来の競争ではない「競争」に入り込んでいるからだ。
企業は特殊な模倣の達人となり、異質的同質性、いわば異種のクローンで
あふれる製品カテゴリーを作り出している。差別化どころか模倣である。
ところが、この模倣は「差別化」という専門用語の仮面を被り、マネジャーの頭の中で生き続ける。
実際には、王様は裸で、消費者はそのことに気づいているのだが。

この傾向はどのカテゴリーでも見られる。10年前、ボルボは実用性と安全性で
知られており、アウディはスタイリッシュさで人気があった。最近では、アウディ
安全性テストでボルボをしのぎ、ボルボの広告はスマートな走りを演出している。
(略)
消費者側にも多少の責任はある。ボルボのドライバーに改善してほしい点を聞けば、
安全性には満足しているが、もう少しセクシーさがほしいと答えるだろう。
アウディのドライバーに同じことを聞いてみれば、逆の答えが出てくるはずだ。
(略)
こうしてアウディのように走るボルボボルボのように走るアウディが誕生する。

1年ほど前、テレビを買いに行ったときのこと。(略)最初のうちは、店員にソニーへの
愛着を伝え、踏みとどまろうとしたが、いつのまにか、ブランドだけで決めるほどナイーブで
なくてもいいという店員(言うまでもなく、知識豊富な"カテゴリー通")の穏やかな説得を
受け入れていた。結局、私はもっとも現実的な選択をした。
この瞬間、また一人の消費者が、またひとつのカテゴリーで、ブランドにこだわる愛好家から、
こだわらない消費者へと、境界線を越えた。


最後の引用は、特に既視感があって、僕は身の回りの多くのもので
これに似た選択を行っている。洗剤や歯磨き粉の違いはもはや分からなくて、
単純に近所で一番安いものを買ってたりする。
もともと僕はモノにはあまりこだわりがないほうだけれど、
企業は差別化を謳って、広告を出して、にも関わらず消費者から見ると
同質化していって、違いが見えない、「知らないし、興味もない」状態に
なっていることにとても共感ができた。


「カテゴリー内の競争が激化するにつれて、競い合う企業は群れと化して」
ある臨界点を超えるとその違いはもはや消費者からは分からず、しかし
「渋滞に巻き込まれたドライバー」のようにこのダイナミクスに抗うことは非常に難しくなる。


でこの状態を打破するために、著者はケーススタディとして
アップル、グーグル、ハーレー、MINIクーパー、IKEA などを例としながら語る。


僕はこの話を読みながら Google App Engine のことを思いました。
Google App Engine は色んなことが特殊だけれど、
例えば、ひとつの例として GAE では全文検索ができない。(有料版はできるらしい)
現在はライブラリ(実用レベルはまだなさそう)を使ったり、
自分で同等の機能を実装する必要があります。
全文検索ができない、と分かった時に考えたことはよくこの仕様で Go サインが出たな、ということです。
Google の中の人達からしたら、「当たり前でしょ、スケーラビリティ考えたらそうなるでしょ」という
話なのかもしれないですが、群れの中に無意識でも属す会社の会議とかで同じことを言ったら、
必ず誰かが大声を出して、「そんなもの提供できるわけないでしょう」みたいになると思う。
そもそも全文検索云々以前に Google App Engine が目指しているものが異端すぎるけれど、
他が提供している何か、とか全く考えてない、
著者が言う異質的同質性というものを踏まえながら考えると、
そのことがすごいな、と改めて思いました。


耳が痛い話でもあり、また共感もとてもできる話でもありました。
でも結局なんで面白いと思ったかは、この本が普遍的に面白いから、というよりかは
ちょうど自分の抱えている問題にリンクしたからだと思いました。
(本の面白さとは常にそういうものだと思いますが :)